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■ オープニングノベル ■

その男は静かにブランデーグラスを傾けていた。
身長はゆうに2mを越すかという大男だが
非常にスマートでクールな雰囲気を醸し出している。
背中には悪魔のような羽と尻尾があった。
そう、彼は人間ではなく悪魔族なのだ。
確かにその男の目には"コワイモノ"が
宿っているようにも見える。
しかし、時折ひょうきんな部分を見せることもある。
ひょっとしたら彼が飲んでいるのは
ブランデーではなく、ウーロン茶かも知れない・・
そんなふうに思えるほど
悪魔である彼の本質を理解するのは
容易ではないのだ。
その時、部屋の外で大きな物音がした。
なにかひどく乱暴な、人為的な音だった。
ニヤリと笑った彼の口元から
白い牙がこぼれた。
かみさまが創造した世界「アストラワールド」・・
その世界はとても美しく、平和で皆幸せに暮らしている。
しかし光あるところに影あり・・
アストラワールドにも悪は存在する。
これは「必要悪」であり、影がなければ光もまた存在しないのだ。
「黒の街」
この街はギャンブルや犯罪がはびこる、
アストラワールドの「影」の部分を象徴する街である。
黒の街は大きく分けて「キタ」と「ミナミ」に分かれる。
それぞれにギャング達が居て、縄張りを管理している。
「ミナミ」には
"ネルロ"率いるギャング「Scoop(スコップ)」・・
「キタ」は
"フーリー"率いる「Evita(イビータ)」がいる。
お互いは牽制しあい、時には戦い、時には静観し、
均衡を保っているのだ。
Evita(イビータ)の生計の立て方はまさにギャングそのものだ。
他の国から奪った盗品を安く買い、高く売りつける。
自らは盗まないが盗品とわかってて買うのは同罪である。
高く売ると言っても一般的に買う値段よりは格安なので
充分に需要はある。
また、ボディガードという仕事もある。
義務感で動く警察よりも金と信頼で動くギャング達の方が
よっぽど頼りになるときが多い。
また、ギャングには腕の立つ者も多い。
金持ちはギャングと裏で繋がっている場合が多く、
取引の場でのボディガードなどを依頼する。
裏取引の場合は警察に依頼すること自体がナンセンスなので
必然的に彼らの出番となるのだ。
あと大きいのはカジノの経営だ。
基本的には運の要素が絡む商売のため、安定性に乏しい。
店側の主張としては、
各個人が儲けるためではなく、楽しい時間と空間を堪能する料金として
考えて欲しい、ということだ。
そして、黒の街でギャンブルをするという"スリル"を楽しんでもらう。
そのため、近くにホテルを建ててショーなどを開催し、
家族や友人同士で何日か宿泊してもらい、
できるだけカジノでお金を落としていってもらう。
しかし一攫千金という魅力を消してしまう訳にはいかないので
1年に1回ほど大金を手に入れる人間が現れて
話題に上らせたりする。
もちろんそれはギャング達が用意した"サクラ"なのだが。
このように黒の街での「大人の良識」をわきまえて
遊ぶ分には良いのだが、やはり大儲けする客も出てくる。
そういった客に勝ち逃げさせることは彼らにとって
死活問題であり、物事が成り立たなくなる。
そこでそういう輩には"脅し"などで
金品を巻き上げるのだ。
これが黒の街でのモラルであり、彼らの生活なのである。
バタンッ!
大きな物音を立ててドアが開いた。
「大変だっ、アニキッ!!」
突然入ってきた男はそう叫ぶと同時に
しゃがみこんでいた。
その瞬間、頭の上を恐ろしく速い速度で
何かが通り抜けていった。
ズガアァァァァーンッ!
壁が大きな音を立てて崩れた。
「チッ・・カンのイイヤツだ・・」
ドアのそばには長身の男が立っていて、
指を拳銃のような形にしながらそうつぶやいた。
指先からは青白い煙がたっていた。
「あ・・あぶねぇっ!当たったらどうすんだよっ!」
入ってきた男は慌てて叫んだ。
どうやら部屋の男とは仲間らしい。
「死ぬ」
部屋の男は仲間に対してそのように平然と言ってのけた。
「俺様に会いたいなら1年前からアポを取れと
いつも言っておるだろう」
冗談とも本気ともとれるような口調で男は言った。
「で、何かあったのか、ラヴィ。ん?」
唖然として見上げるラヴィに向かって、とても
優しい顔で問いかけた。
「そ・・そうだった。
オレ今日、レタスんとこに遊びに行ってたんだけど、
"伝書蝙蝠"の知らせでオレ達の"シマ"のカジノが
大変なことになってるって連絡があって・・」
「フン、顔面蒼白だな。よほどの事件か・・」
部屋の男はそうつぶやくと目に"コワイモノ"が光った。
(いや・・これはさっきアニキが弾撃ったから・・)
ラヴィはそう言おうと思ったが
寸前のところで言葉を飲みこんだ。
(もう一発撃たれたら次は避けれそうにないからな・・)
「続けろ」
「う、うん。
どうやらカジノ側のディーラーが全員負けて
店が乗っ取られるというところまでヤバくなった
みたいなんだ。プラトーとトラッシェもすぐに
向かったみたいなんだけど、どうも負けたらしい・・
相手が誰だかわかんないんだけど・・」
「フン・・このフーリー様の"シマ"で
そんなマネするヤツがいたとはな・・
ネルロのクソ野郎かそれとも・・」
「あそこが取られたらオレ達の威厳にかかわるよっ!
アニキってギャンブル超弱いけど
なんとかしてくれるかなぁって思って・・・ひっ!」
フーリーの殺気を感じたラヴィは思わず身構えた。
「・・貴様は、常に!食べてる時も!出してる時も!
寝てる時も!俺様を信じているだけで良いのだっ!
・・それで、ゲームの内容は?
カードか?」
「そ、そう。この間新しく導入したルールのやつ・・だ・・?」
今までラヴィの目の前に居たはずの
フーリーの姿が消えていた。
ギギ・・
ドアの軋む音だけが部屋に残っていた。
「あっ!待ってよ、アニキーッ!!」
汚れたズボンを2,3回手ではらうとラヴィは慌てて
フーリーの後を追った。
黒の街は昼も夜も暗い。
暗黒の雲が厚く垂れ込めていた。
その雲のやや下付近を驚くほどの速さで飛ぶ物体があった。
漆黒の闇を滑空するフーリーである。
「フン・・"フルスカルテ"か・・」
涼しい口調でつぶやいた顔は微妙な笑みを浮かべていた。
それはまさしく"悪魔"のものであった。
−突入−
「ふぅ・・追いついた・・」
カジノに入ろうとするフーリーの背後からラヴィの
安堵の声が聞こえた。
「貴様にしては上出来だな」
フーリーはラヴィに対して振りかえりもせず、
カジノの看板を見つめながら言った。
「さて・・」
飄々とした顔つきでフーリーは中へ入っていった。
ラヴィも後に続く。
中にいた客の数は普段より少し多めだった。
皆、手を止めてカジノの端っこを見ていた。カードのところだ。
「お、おい、フーリーだぜ・・」
フーリーに気づいた客はざわめいた。
「あっ、あの人たちはっ!!」
突如ラヴィがカードの場所を指差して叫んだ。
「ステラ・・ マロン・・ ルージュ!」
Scoop(スコップ)の連中だと思っていたラヴィは
意外な人物だったことに驚愕した。
そしてScoop(スコップ)の方がまだ"マシだった"と
心から思ったのだった。
−強敵−
ステラは伝説の魔法使いと呼ばれる、森の園のカリスマ的存在だ。
その魔法力は一国の兵力を凌ぐとも言われている。
フーリーとは昔から面識があり、犬猿の仲なのである。
その魅力的なボディと長い髪はあらゆる男性を魅了する。
マロンは天界で見習い天使をしている。
天界では人気・実力NO.1のスターだ。
悪魔であるフーリーとは考えが根本的に合わず、
顔を合わせれば戦いが起きることが多い。
ルージュはアストラワールドのサンタクロースである。
世界中の人々から慕われている、小さな女の子だ。
フーリーを悪い人とは思っておらず、フーリーとしては
苦手でやりにくい相手だ。
彼女たちはアストラワールドで"スター"と呼ばれており、
かみさまが開催した「アストラスーパースターズ」という最高のスターを
決める大会に出場している。
それぞれがフーリーと戦ったことのある経験を持っているのだ。
−決意−
「貴様ら・・ここで何をしておるのだ」
フーリーは顔色一つ変えず問いかけた。
「あら、ゴキブリフーリーちゃんじゃないの。まだ生きてたわけ?」
ステラが恐ろしいことを簡単に言ってのけた。
フーリーがふと目線を下げるとステラの足元に
プラトーとトラッシェがうずくまっていた。
「プラトー! トラッシェ!」
ほぼ同時に気づいたラヴィが叫ぶ。しかし彼らからは応答がなかった。
ラヴィは心配と怒りでおかしくなりそうだった。
プラトーとトラッシェはいつも一緒に居る大事な仲間だ。
プラトーには命を救ってもらったことが何回もある。
トラッシェにはギャングのモラルと誇りを教えてもらった。
その時突然銃声が鳴った。
ラヴィがステラに向かって何の前触れもなく銃を撃ったのだ。
チュイィィーンッ
弾はステラのほんの数センチ前で跳ねかえった。
"マジックシールド"・・
ステラは常に魔法のバリアを張っているのだ。
「ったく、なによ突然! あぶないわねっ。
こいつらは別に死んでなんかないわ。ゲームに負けたらアンタみたいに
突然暴力に訴えてきたからちょっと"おしおき"しただけよ」
「あんた・・このままじゃあ済まさないゼ・・・」
銃をステラに向けて構えたまま、ラヴィは言った。
顔付きからは何かを決意している、強い意思が感じられた。
いつものへらへら顔とはまるで別人のようだった。
−誇り−
「私がカードで負けるなんて・・」
トラッシェは困惑を隠せなかった。
それはフーリーが乗りこんでくる2時間前の話だ。
プラトーとトラッシェがカジノに到着し、ステラ達と
カードゲーム"フルスカルテ"で勝負することになった。
「オレが一気にカタを付けてやる!」
プラトーが椅子に腰掛けようとする動きをトラッシェは左手で制した。
「私がやります」
トラッシェはいまだにフルスカルテでは負けナシの
"天才ギャンブラー"である。
ステラを見たトラッシェはプラトーに勝ち目がないことを
瞬時に悟って自ら勝負に出た。
そして・・・
「お客サン、困りますね・・ ちょっとこちらに来てもらえますか」
プラトーはトラッシェが敗れたのをしっかりと確認したあと、
"コワイ"声色で静かにステラに言った。
「んま!アンタ達ギャングっていつもそうなんだから!
都合が悪くなるとすぐ力づくでなんとかしようって・・バカじゃないの?」
と、ステラが言うと、
「ホントホント! 諦めが悪いよっ」
マロンが続けた。
突然マロンの前に風が吹いた。
その風をおこしたのはプラトーだった。
とてつもない速さでマロンに近づき渾身の突きを放っていた。
ガツンッ
鈍い音が鳴った。
プラトーの突きはマロンにあっさりとガードされていた。
と、同時にマロンの羽が拳の形に変形し、プラトーに向かって飛んできた。
「チィッ」
両手をクロスしてガードするが、そのまま10mほど吹っ飛んでいった。
「お?! なかなかやるわねー」
マロンは少し驚いた顔で言った。
プラトーはしびれた両手を振りながらトラッシェをちらりと見た。
トラッシェは懐から銃を取り出すとステラたちに向かって構えた。
「プラトー、彼女らはアニキと同等の強さを持つ、
各国のスター達です。万にひとつも勝ち目はありません。」
「あん?! バカヤロウ、それを早く言えってんだ・・」
プラトーはため息まじりにつぶやいた。
「フッ・・最初に忠告してたら攻撃しませんでしたか?」
「いや、やってたな。ここで引いちゃあオレ達Evita(イビータ)の
威厳はボロボロだ。たとえ100%負けるとわかってても
"誇り"だけは失うわけにはいかねぇ。それになにより・・」
「ええ、アニキの名前に傷がつきますからね。それだけは絶対に
避けなければいけません」
「おおっ!これがオレ達のやり方だっ。黒の街には黒の街の
やり方があるんだっ! トラッシェ世話になったな!
お前の説教をもう聴くことができないのが残念だぜ」
「フフ・・なんなら地獄ででもたっぷり説教してあげますよ」
「・・兄弟仁義ってやつかしら。まあいいわ、かかってらっしゃい」
呆れた顔でステラがそう言った瞬間、2つの風が舞った。
−罪と罰−
(この"44ソーママグナム"の弾を跳ね返すなんて・・さすがに手ごわい・・)
魔法とはこのようなものなのか・・初めて目の前で見る魔法は
ラヴィにとって未知のものであり、それは恐怖となった。
何度もその恐怖に負けそうになる。
そういう時はプラトーとトラッシェを見ると勇気と怒りが湧いてきて
恐怖に打ち勝つことができる。
このようなことを頭の中で繰り返しながらようやく立っていられた。
「あのね、暇だったからマロンのとこに遊びに行ったの」
ルージュが静寂を破ってのんきな声で言った。
その声は優しく、その場に居た者すべての心を和ませた。
「それでマロンと何して遊ぼうかって考えてたら
ちょうどステラさんと会ってね・・」
ルージュはことのいきさつを話しているようだった。
「そうよ。暇なんだったらカジノでも行ってパァーっと儲けましょう!
ってあたくしが提案したのよ。おほほほほ」
ステラがおかしそうに言って笑った。
「この牛女がっ! ガキをギャンブルに誘うとは・・」
フーリーはステラの豊満な胸を見ながら吐き捨てるように言った。
「あら、"なんでもアリ"のアンタにそんなこと言われたくないわねぇ。
それにトランプなら子供でもできるし、楽しんでるんだから
いいじゃないの」
「・・・フン。ラヴィ、貴様は下がっていろ」
フーリーは右手を軽く前に出してラヴィを制した。
その手はうっすらと青白い炎に包まれているように見えた。
「アニキ、やるんなら当然オレもやらせてもらうよ・・」
コワイ顔でフーリーを睨んでラヴィは言った。
「貴様はそこで俺様の美しい勝ち姿を眺めているがよい。
どうせすぐにカタがつく。・・・おい、牛女と露出狂天使とチビ助、
カードで勝負してやるから順番にかかってくるがよい」
フーリーがいつのまにかテーブルのそばの椅子に腰掛けていた。
「ア、アニキ・・カードで勝負するの・・?」
ラヴィは少し焦った。
(ん?まてよ・・ よく考えて見ると、アストラワールドの
スター3人相手ではさすがのアニキも苦戦するだろう・・
ヘタをすれば負けもありうる。
あと大きいのは、ここはカジノということだ。
たくさんのギャラリーがいる。ここはカードで負かさないと
信用と威厳に関わるかも・・
さすが、アニキ・・ちゃんと考えているっ!
そして何か勝算があるに違いないっ)
「あ!遊ぶの? わーい、じゃああたし一番ね!」
ルージュがはしゃいだ。
「あら、めずらしく大人しいわね・・まあいいわ。
そのかわりアンタが負けたらこのカジノいただくわよ。
"マイ・カジノ"・・・ああ・・なんてイイ響きかしら・・」
ステラが妄想の世界に入った。
「・・あんたってギャンブル弱くなかった?無理しちゃってー」
マロンが横目でステラを見ながらフーリーに言った。
「・・・では貴様らが負けた場合は俺様の言うことを
何でも聞いてもらう。それぐらいでないとその取引は成り立たん」
フーリーがニヤリと笑って言った。
「フフ・・いいわよ」
ステラは絶対的な自信を持っているようだ。
「ちょ、ちょっと!大丈夫?ステラさん?!
・・ま、いっか。でもあたしたちだけってのもシャクだから
あんたも負けたら、言うこと聞いてもらうわよ!」
マロンが感情的になって言った。
「おい、こっちはカジノがかかってるんだっ。
充分リスクは背負ってるだろっ?!」
ラヴィが不服そうにマロンに怒鳴った。
「あら、アンタ達は正当に勝負して負け続けたんだから
取られるのは当然でしょ? 負けたら大人しくバツゲーム受けなさい。
どお?フーリーちゃん?」
ステラの言うことはもっともだった。
「フン、好きにしろ」
フーリーは特に動じていない。
(やっぱりアニキはすげぇ・・やはり何か秘策が・・)
ラヴィはこの状態で顔色一つ変えないフーリーを
改めて惚れなおした。
「で、このフルスカルテってのはどうやってやるんだ?」
フーリーは相変わらずの表情で淡々と根本的なことを問いかけた。
「・・・」
やはり"悪魔"の考えは常人には理解できないのかも知れない・・
ゲームにつづく